ベテラン吉田秋生の新作です。前作の「海街diary」から、恋愛を主題にしたり、「BANANA FISH」のようなアクション大作とは違って、基本一話完結の連作短編集でごく普通の人々の日常を繊細に描いた作品が続いています。
昔のファミリードラマを見るような作品で、穏やかで平和でありながら、そうした中にも過去の後悔を引きずっていたりして、人間はしがらみの中で生きていくものなのだと思わせます。
この4巻は町が登山道整備で揺れる中で、主人公(一応)の和樹は水神祭りをおえ、将来のことを考え始めたところ、行方不明だった弟が育ての義母の葬儀に現れて……という展開になります。
この和樹は、海街diaryの主人公のすずちゃんの父親の後妻の連れ子で義理の弟という設定ですが、すずちゃんは基本的に登場せず、そもそも実質的な主人公は、小川妙というとても高校生には見えない美人さんの女子高生です。
吉田秋生は少女漫画家ですが、デビュー当時は大友克洋の影響を強く受けたような画風であまり少女漫画らしくはありませんでした。それがキャリアを積むうちに、だいぶ柔らかくなってきましたが、やはり今でもそこまで少女漫画らしさは薄く、男性読者にとってもとっつきやすい仕上がりになっています。
個人的には「河よりも長くゆるやかに」という83年頃に全2巻で発表された作品が、𠮷田作品で一番の好みでした。というよりも「BANANA FISH」はあまりにハードボイルド過ぎるのと、個人的に仕事に追いまくられて精神的な余裕のない時代に発表されていただけに、追いきれていませんでした。
その後の「ラヴァーズ・キス」、「YASHA-夜叉-」、「イヴの眠り」のころも、同じく漫画・アニメなどのサブカルと遠ざかっていました。
「海街diary」の頃にようやく、その仕事をやめてもうちょっと余裕のある新しい仕事をしていた時期なので、しっかり始まりから完結まで新刊が出るたびに追っていました(Wikipediaでみると11年も掛かっていたのですね)。
そして、この「詩歌川百景」。2019年から発表し始めて、まだ4巻目。
吉田秋生ももう年齢的には漫画家引退してもおかしくはないだけに、どこまでこの作品を紡げるのか気になりますが、こちらももう結構な年齢になっているので、気長に付き合っていきたいです。
コメント