ウシュクベは、日本ではそこまでの知名度は無いかもしれませんが、クオリティの高さでスコッチ好きの間では大きなステイタスを持つ、ブレンデッドウイスキーの銘柄です。
ウシュクベ(Usquaebach)とはゲール語で「命の水」という意味で、ウイスキーの語源になったと言われている言葉です。
ウイスキーの起源は、1494年にスコットランド王ジェームズ4世がウイスキー作りを修道院に命じたことに遡ると言われており、その頃には「uisge beatha」(ウシュクベーハ)または「Usquaebaugh」(ウシュクベー)と呼ばれていたそうで、これが英語で「whiskybae」(ウイスキベー)になり、現在のwhiskyに変化していったということです。
17世紀スコットランドの代表的な詩人で、「蛍の光」の作者としても知られるロバート・バーンズは代表作「タム・オ・シャンター」(1791年)の中に「ウシュクベさえあれば、悪魔もなにするものぞ」という一節があります。
そうした歴史のあるウシュクベという単語ですが、これを銘柄名として使ったのは、酒商であるロス&キャメロン社(インヴァネスに本社を置いていました)が1877年に商標としてウシュクベを登録。これは現存する銘柄名としてはかなり古いものになります。
1926年にキャメロン氏が亡くなると、会社をウィリアムグリゴー&サンズが買収。このウィリアムグリゴー&サンズ社は戦後の1950年にボウモアを買収したことでも知られます。
ボウモアは、1963年にスタンレー・P ・モリソン社が買収しますが、ウシュクベの商標はアメリカのトゥェルブ・ストーン・フラゴンズ有限会社のオーナーであるスタンレー・スタンキーウィック氏が取得。
このときに多くの法廷闘争があったようですが、スタンキーウィックはウシュクベを米国で販売する権利を獲得し、ダグラス・レイン社の協力を得て生産を可能にしました。
こうしてウシュクベの名にこだわった理由は、米国でのウシュクベの評判は非常に高く、すでに合衆国政府のお気に入りになっていて、1969年のニクソン大統領のホワイトハウス就任式のディナーパーティで提供され、さらに1989年のジョージ・H・W・ブッシュ大統領の時にも同様に選ばれています。
ところが、ウシュクベの流転はまだ終わりではなく、1990年代初頭にスタンキーウィックはダグラス・レイグからホワイト&マッカイに協力相手を変えましたが、2001年のスタンキーウィックの死に伴い、ブランドを引き継いだホワイト&マッカイはその生産を中止。
ウシュクベは一時、作られなくなってしまいました。
しかし、コバルトブランド社が2005年に商標を購入してウシュクベを復活。
現在に至ります。
コバルトブランド社は積極的にウシュクベを展開しており、2016年には22年ぶりになるAn Ard Ri (アン・アルド・リ)を発売。これはコバルトブランド社がハンターレイン社と時間をかけて共同開発したそうで、20種のモルトをブレンドし、グレーン原酒を含まない、ヴァッテッドモルト(ピュアモルト)になりますが、加水もチルフィルターも行わない原酒の味わいを最大限に活かしたというもので、その他の通常品でもブレンデッドウイスキーとしては、それなりの価格帯に入ります。