米澤穂信の代表シリーズの「古典部」を3冊本の豪華愛蔵版にしたものになります。単純に古典部シリーズを読むだけならば、単行本も文庫本も入手しやすくなっていますが、ファンとしては愛蔵版が欲しくなります。
この三冊は昨年の3月に最初の一冊がでてから、本日(2024.03.27)に最後の3冊目が出版されたところです。1冊5000円オーバーと相当に高価な本ではありますが、昔は割合にこの手の愛蔵版みたいな豪華本はけっこう有ったものですが、最近はあまり見かけない企画です。それだけ古典部が人気のシリーズということでもあります。
古典部の第一作の「氷菓」は米澤穂信のデビュー作品で、角川スニーカー文庫のサブレーベルであるスニーカー・ミステリ倶楽部から刊行されたもの。次の「愚者のエンドロール」も同レーベルからでましたが、そこでサブレーベル自体が頓挫し、続編が出ないという状況になりました。そして、この古典部自体も売上はそこまで高くなかったので、このシリーズはここでお終いの筈でした。
ところが、古典部シリーズの最終巻のつもりで企画していた作品を全面改稿して東京創元社から「さよなら妖精」として刊行したところ、これが評判になって、角川でシリーズ再開。「クドリャフカの順番」が単行本で刊行され、前2作が文庫化という流れです。
最初に発表された2001年当時はそれほどの売上にはならなかったのですが、2012年に京都アニメーションでアニメ化。それに応じて2012年のラノベの売上では古典部シリーズが第3位になっています。
現在は、さらに短編集の「遠まわりする雛」、長編の「ふたりの距離の概算」、短編集の「いまさら翼といわれても」が発表されています。
「古典部」シリーズは、いわゆる日常の謎を扱った推理シリーズで、舞台は飛騨高山をモデルにした上山市の神山高校。
この高校に入学した主人公の名探偵、折木奉太郎が古典部に入部したところ、ヒロインの千反田えると出会い、友人の福部里志、伊原摩耶花の4人が次々に不思議な事件に巻き込まれていくという展開です。
事件自体は「日常の謎」系の推理モノだけに、殺人はもとより、いわゆる犯罪行為すらも例外的な短編「心あたりのある者は」で偽札づくりがでてくるだけ。
ただ、登場人物達の青春時代ならではの屈託や悩みなどがかなり切実に(痛々しくとも言えます)描かれていて、それが独特な魅力になっています。
その代わり、という訳でも無いのでしょうが、作者の米澤穂信が年を経ていくうちに作家としての力量はすごく上がる(大きな賞をとりまくるようになります)のですが、同時に青春時代が遠くなったようで、古典部シリーズや、もう一つの若い主人公を据えた小市民シリーズあたりはなかなか続編が出にくくなってしまいました。
この愛蔵版では、特に最終巻にあたる、シリーズⅢでは「 三つの秘密、あるいは星ヶ谷杯準備滞ってるんだけど何かあったの会議」「虎と蟹、あるいは折木奉太郎の殺人」の他の単行本、文庫本未収録の作品も収められています。
京アニで制作したアニメ「氷菓」は、マイベスト深夜アニメの一つになるぐらい好きな作品で何度も見直していますが、それに続いて「小市民」シリーズもこの7月からアニメ化され放映開始。とても楽しみにしています。
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