キンドルで、山田風太郎の忍法帖を始めとした諸作品がキンドルで揃っているのでご紹介します。
文庫版の価格に比べて特に安くなっている訳ではありませんが、かなり前の文庫価格に比べてなので、今の水準からすると値ごろ価格になっています。更に、今では紙の文庫は絶版になっている作品も多く、今頃風太郎にハマった方にはおすすめ。
そんな人がいるのか? という気もしますが、そろそろ仕事をリタイアする年齢の方で時間ができたので改めて読書しようかと思いついた場合、山風は肩が凝らずに気楽に読める作品群なのでおすすめです。
山風の忍法帖は「何の意味もない、単純に面白い小説」を目指して書かれたそうで、特に秘められたテーマとかは設定していないとのことです。実際、確かに基本的には気楽に読める作品ばかりなのです。
しかし、中にはおそらくは作者自身も意図せずに裏テーマと思しきものが浮かんでくる作品があるのも、忍法帖の隠れた魅力です。風太郎は戦争に行くことなく、医学生として戦時中を過ごしていましたが、東京大空襲に遭遇して色々と思うところがあったようで、それが覚えずに作品ににじみ出ているのだろうと思います。
記念すべき忍法帖第1作。「バジリスク」の原作としても知られています。伊賀甲賀それぞれ10人の忍者が血で血を洗う殺し合いを描いた作品です。「リングにかけろ」や「聖闘士星矢」、「魁!!男塾」「幽☆遊☆白書」みたいな、少年ジャンプの黄金時代を彩ったトーナメント形式の超能力バトルの原型みたいな作品です。
バトルの原因がかなりくだらないもので、それに命をちらしていく無意味さ、空虚さが風太郎文学の本質を伺わせます。
忠臣蔵の隠れた裏事情を描く、という体裁の一作。あくまで討ち入りを目指す赤穂浪士と、それを未然に潰そうとする上杉家家老の暗闘を描きます。主人公は超絶忍法の持ち主ですが、彼よりもむしろ赤穂浪士とその周辺の家族たちの覚悟が読みどころです。
戦国の梟雄、松永弾正と妖術師の果心居士、そして妖女とでも呼ぶべき篝火といった風太郎好みのアクの強い登場人物が暴れまわります。
八犬伝をモチーフに忍法帖をやった一作。八犬士の末裔たちはぼんくらで忍法修行に出たものの途中で逃げ出す体たらく。ところが8つの玉をすり替えられて、それを取り戻すべく、服部半蔵の配下の女忍者8人とエロチックな戦いを繰り広げていく……。
大阪夏の陣の際に大阪城落城の際に逃げた千姫と侍女たちだが、その侍女たちが女忍者で秀頼の落とし胤を身ごもっていて、それを知った家康が伊賀忍者に抹殺を命令。血で血を洗う忍法合戦が始まります。忍法帖といえば、とんでも忍法が「売り」の一つですが、このくノ一忍法帖では忍法筒涸らしや、忍法筒枯らしなど、何時にもまして切れ味抜群です。
バジリスクの前には、おそらく忍法帖で一番知名度が高かったのはこの魔界転生でしょう。快男児柳生十兵衛と、忍法魔界転生で復活した剣豪たちとの夢のバトルが繰り広げられるというもの。すでに知名度の高い実在や空想上の剣豪や戦士たちが復活してバトルしていくという形式は、多くの作品に影響を与えており、Fateの作者も魔界転生のアイディアに影響を受けたことを名言しています。
風太郎はストーリーをキチンと決めずにライブ感で描くタイプの作家ですが、この作品でも元のタイトルは「おぼろ忍法帖」。どんな展開になっても構わないようなタイトルにしたそうです。
その結果、産まれたのが「魔界転生」という単純でありながら個性的で印象的で美しいタイトルというのが見事です。
忍法帖第2作目。陰鬱な甲賀忍法帖の次は、明朗なアクションがやりたかったそうですが、風太郎いわく「少年小説みたいな」出来になってしまったということです。実際、珍しく明るく伸びやかな雰囲気の作品です。
柳生十兵衛ものの第一作。江戸初期を舞台に会津藩主加藤明成と配下の七本槍、彼に恨みを持つ7人の美女たちとそれを助ける十兵衛の暗闘を描いた長編です。途中で、妖人芦名銅伯と魔性の女おゆらがクローズアップしてきて、7人の女も会津7本槍も影が薄くなっているのが残念かな。やはり、ライブ感で書いているから、こういうことがあります。
秀吉による小田原攻めをモチーフに、僅かな手勢で忍城(今の行田市)を守る美姫とそれを助ける風来坊の香具師たち、そして攻め手の石田三成の命を受けた風魔忍者たちとの戦いを描きます。
珍しく主人公たちチームは忍法を使いませんが、1人一芸で対抗していきます。昼寝睾丸斎というネーミングセンスがなんとも言えません。また、馬左衛門のいち芸の活かし方がインパクト抜群です。
短編集。忍法帖は登場人物たちがあっさりと無惨に死んでいくのが特長ですが、短編だとより一層そのあっけなさが際立ちます。
これも短編集。有名な「忍者枯葉塔九郎」が収録されています。この作品は水木しげるがマンガ化していて、あのとぼけた筆致でけっこう下品なエロネタをやっているのがなんとも味わい深いですが。残念ながら、この短編集には小説の方のみ収録されています。
短編集。表題作の忍法が鉄砲の威力の前に時代遅れとなっていく悲嘆を皮肉たっぷりに描いている一作はもちろん、隠れキリシタンに題材を求めた短編は印象深いです。
忍法帖の合間に書かれた変わり種の太閤記です。今でこそ、秀吉の影の部分にフォーカスした作品も少なくないですが、当時は豊臣秀吉といえば明るく活発で日本で一番出世した男、ぐらいのイメージで多くの作家がその前提で太閤記を書いていました。
そうした時代に、老醜の権力者の横暴をたっぷりと描いていて、異彩を放ちます。特に、秀次一族の鏖殺の場面の陰惨さは迫力満点です。
風太郎は、推理小説の時代、忍法帖の時代を経て、次に「この時代を扱うと売れない」という出版界の風潮に逆らい明治ものを多く発表。これは忍法帖に比べて大人気とはいきませんでしたが、今でも数え切れないほどのフォロワーを生み出しています。
そして晩年近くになって、さらに「売れない」と言われた室町時代にスポットを当てて、数作の作品を発表しています。さすがに年齢的な問題があって、作品数そのものは少ないのですが、いずれも衰えを感じさせない名品ばかり。
この「婆娑羅」は室町ものの第一作目にあたり、佐々木道誉を主人公にしています。まあ、太平記のダイジェストなのですが、主人公に佐々木道誉を持ってくるあたり、風太郎の好みを感じさせます。


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