アイリッシュウイスキーについて
アイリッシュウイスキーの特徴
アイリッシュウイスキーは、一般的にはモルティングの過程でピートを使用しないことが多く、単式蒸留器で3回蒸留を行うことが特徴となっています。
スコッチウイスキーはスモーキーな香りは控えめで、軽くフルーティなものが多く、初心者にも親しみやすいと言われています。
世界の5大ウイスキーの中では比較的、近年まで馴染みが少なかったのですが、近年は世界的なウイスキーブームの中でシェアを伸ばしていて、普通に町中のスーパーや酒屋の棚で見かけるようになっています。
アイリッシュウイスキーという名前の通り、アイルランドで作られるウイスキーという意味なのですが、この「アイルランド」は国名ではなくアイルランド島を指します。現在、アイルランド島は英国領北アイルランドと南部のアイルランド共和国に分かれますが、ウイスキーに関してはどちらで作られても「アイリッシュウイスキー」になります。
なおスコッチウイスキーの世界では「Whisky」と表記しますが、アイルランドでは「Whiskey」と「e」が入っています。
アイリッシュウイスキーの歴史
アイルランドは一説にはウイスキー発祥の地とされることもあります。その根拠は1172年にイングランドがアイルランドに侵攻した際に、大麦から蒸留した酒が飲まれていた、という故事があるから、になります。
アイリッシュウイスキーの全盛期とも言える18世紀から19世紀にかけては、数百の蒸留所が存在し、生産量でスコッチウイスキーを圧倒しており、世界一を誇っていました。特にアイルランドの首都ダブリンでは、ウイスキーづくりが盛んでした。
その栄光が陰ったのは、20世紀初頭になります。最大の市場であったアメリカ市場で禁酒法(1920年~33年)が施行され、同時にスコッチウイスキーの世界で飲みやすいブレンデッドウイスキーが生まれ、市場を席巻しました。
時期を同じくして、1921年からアイルランド内戦が勃発。翌年にはイングランドからの独立を勝ち取り、アイルランド自由国が成立しましたが、その報復としてアイリッシュウイスキーはイングランドとその植民地から締め出しを受けて、さらに市場を失います。
アメリカ市場においても、アメリカ本土で密造された粗悪品がアイリッシュのラベルを貼って密売されたことで、アイリッシュウイスキーの評判自体もガタ落ちになってしまいます。
さらに第2次世界対戦において、アイルランドは中立だったため、ヨーロッパ戦線に派兵された米兵たちにはスコッチウイスキーウイスキーが支給されることになり、彼らが戦後に本国に帰ったのちもスコッチを愛飲するようになったため、戦後のアメリカ市場での優位も失う事となりました。
1950年代に入ると、本格的にアイリッシュウイスキー冬の時代が訪れ、多くの蒸留所が閉鎖、合併されていきます。この頃の明るい話題といえば、アイルランドのシャノン空港のバーテンダーが考案したというアイリッシュコーヒーが空港の利用者に好評を博し、米国の新聞記者を通して世界中にこのカクテルが広まっていきます。
ただ、このためにアイリッシュウイスキーはコーヒーの添え物というイメージも定着してしまい、かつての栄光は見る影も亡くなっていきます。
その後、ウイスキーという飲み物自体が冬の時代を迎え、1980年代初頭にはわずかにミドルトン蒸留所とブッシュミルズ蒸留所の2つが操業しているのみとなります。
しかし、その後、87年に国策として独立系の蒸留所としてクーリー蒸留所が操業開始。
21世紀に入ってからは世界的なウイスキーブームの波に乗って、徐々にアイリッシュウイスキーの需要も高まっていき、2007年にはかつて閉鎖されたキルベガン蒸留所が復活。さらに、各地で小規模な蒸留所がいくつもオープンして、その中にはバスカーを生み出したロイヤルオーク蒸留所のような成功例が目を引きます。
アイリッシュウイスキーの主な銘柄
ジェムソン
ジェムソンは、元々ダブリンの主要6銘柄の一つで、現在はコークで製造されています。アイリッシュウイスキーの売上ランキングでは第一位。全世界でのランキングではとにかく人口が多いインドの銘柄が上位を占めますが、それを除いたいわゆる世界の5大ウイスキーの売上ランキングでは、ジョニーウォーカー、ジムビーム、ジャックダニエルに次いで4位の売上を誇ります。
日本でも、近年はごく普通にスーパーや酒屋の洋酒の棚で見かける銘柄になっています。
味わいはアイリッシュ伝統の3回蒸留によるスムースな味わいが魅力。スッキリした味わいで、華やかでフルーティな香りが漂います。
ブッシュミルズ
1608年創業とも言われていて、現在操業中のアイリッシュウイスキーの蒸留所の中で最古の歴史を誇るオールドブッシュミルズ蒸留所で作られます(1608年にジェームズ1世によるブッシュミルズ蒸留所のあるアントリム州の領主に蒸留免許を与えた記録があります。公式には1784年登録。これでもかなり古い蒸留所です)。
アイリッシュ伝統の3回蒸留を行っていますが、アイリッシュでは一般的な未発芽の麦は使わずにノンピート麦芽100%のモルト原酒にこだわっています。
軽やかでスムースな口当たりを実現していながら、モルトの味わいがしっかりと感じられるのが特徴です。
ティーリング
アイルランドのダブリンにあるティーリング蒸留所にて作られている銘柄になります。
ティーリングという名前は、1782年にウォルターティーリングがダブリンのリバティーズ地区に蒸留所を設立した事から始まり、数世代後のジョンティーリングはラウス州にクーリー蒸留所の設立も手掛けるなど、アイリッシュの歴史においては、重要な名前になっています。
現在のティーリング蒸留所は2015年に、ジョンの息子であるジャックとスティーブンティーリング兄弟がアレックス・チャスコとともに、ウォルターディーリングの創業したリバティーズ地区に作り上げた新しい蒸留所です。
このティーリング蒸留所はダブリンに125年ぶりに生まれた蒸留所にあたるそうです。
ブランド再スタート当初はボトラーズとして、他の蒸留所で作られた原酒をボトリングしていましたが、現在は自社生産の原酒を使っているようです。
カネマラ
カネマラはクーリー蒸留所で製造している銘柄になります。一般的にアイリッシュウイスキーは未発芽の大麦と麦芽の両方を原料に使って、3回蒸留を行うという製造法を取っていますが、それに対しカネマラは未発芽大麦は使わずに、麦芽を使用。それもピートを焚いて乾燥させたものを使っているため、アイリッシュウイスキーとしてはほぼ唯一のピーテッドシングルモルトになります。
蒸留も2回蒸留のシステムを使っており、スコッチに似た作り方をしていると言えるでしょう。ただ、スコッチと比べて、複雑でありながらスムーズな口当たりに仕上がっています。
レッドブレスト
レッドブレストはアイリッシュウイスキーの中では歴史と知名度のある銘柄でしたが、長らく続いた冬の時代にブランドの権利は移動し、現在は新ミドルトン蒸留所で作られるジェムソンの原酒が使われています。
レッドブレストは、ヨーロッパコマドリのことで、1912年にブランドを創業したギルビー社の社長が大の鳥好きだったことから名付けられたそうです。それ以前から前身となる製品もあるそうですが、詳しくは分かりませんでした。
現在のレッドブレストは、どっしりと濃厚な味わいに仕上がっていて、余韻も長く完成度の高い一本になっています。
アイリッシュウイスキーの注目銘柄
バスカー
バスカーは雨後の筍のようにたくさん生まれているアイルランドのマイクロディスティラリーの中で最大の成功を収めている蒸留所といえるロイヤルオーク蒸留所の銘柄になります。
ロイヤルオーク蒸留所は、2013年にウォルシュ・ウイスキー蒸留所として創業し、2019年にロイヤルオークに改名。アイルランドの古代東部地域にある18世紀に建てられた建物の敷地内にあります。大麦の産地の中心に位置しており、原料を周辺地域より調達しています。
トロピカルな風味が魅力で、比較的手頃な価格帯に押さえられていて、日本でも大人気の銘柄になっています。
ブレンデッドを初め、シングルモルト、シングルグレーン、シングルポットスチルと作り分けており、高価になりがちなシングルポットスチルでも、日本での実売価格が4千円前後と値ごろ感が高いです。
また、一般的なアイリッシュウイスキーに比べてシングルモルトとシングルポットスチルの構成比の合計が高くなっていて、それだけブレンデッドであっても味わい深くなっています。

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