小池一夫、小島剛夕の名コンビによる時代劇劇画作品になります。このコンビは「子連れ狼」という名作を皮切りに、「ケイの凄春」「首斬り朝」「半蔵の門」「乾いて候」など、多くの時代劇を発表してきましたが、この「春が来た」はかなりの異色作品になります。
江戸時代を舞台に、職を失った初老の元同心の太郎兵衛と、元忍者の次郎兵衛の2人が、偶然出会い様々な事件を通して友情で結ばれていくという姿を描いた作品です。
主人公2人はそれぞれに腕利きの同心、忍者だったのですが、すでに年老いて引退していて、本来なら大人しく隠居をしていても不思議は無いのですが、その「老後」をある時は明るく、ある時はこの世の地獄と対峙していく姿を描いています。
全10巻ですが、江戸の市井で暮らしていく様を描いた前半に比べて、後半になると旅に出て尾張藩のお家騒動に巻き込まれるという展開になっていきます。この騒動編とも言うべき展開になると2人の主人公の智謀が超人的なレベルになってきて、前半のただの人が悩みながら新しい人生を切り開いていくという味わいが薄くなっているのが残念。
小池一夫は、きっちりと終わりまでストーリーを決めて作品を紡いでいくタイプではなく、読者の反応を見て、ストーリーを修正していくライブ感を大切にする人なので、この作品もおそらくは途中で路線変更をした結果、こうなったのでしょう。
個人的には、子連れ狼みたいに第1巻で暗示された「復讐」という目的を最後の最後まで追い続けて結末にたどり着くような作品の方が好きなのですが、いくつかの作品は当初の設定は面白いのだけど途中で迷走する……というパターンになっています。
ただ、迷走はしていても、その展開だけ切り取ればけっこう読ませるあたりは流石は一流の原作者、と思わせます。
小島剛夕の作画は、墨絵を思わせるもので時代劇にピッタリ。画集が欲しくなるタイプの、雰囲気のある作画を楽しめます。
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