京極夏彦の「百鬼夜行」シリーズの今のところ、最新刊です。昨年9月に前作より17年ぶりに刊行された新刊になります。
百鬼夜行シリーズは1950年代の戦後日本を舞台にした推理小説シリーズで、探偵役の中禅寺秋彦の経営している古本屋の屋号から京極堂シリーズとも呼ばれます。
長編としては17年ぶりですが、前作の「陰摩羅鬼の瑕」が2003年で、そのまた前の「塗仏の宴 宴の支度」が1998年なので、けっこう間隔が開いているので本当に久々! という気がします。
第一作目の「姑獲鳥の夏」は1994年の刊行で、講談社ノベルズから刊行されています。当時の講談社ノベルズは新本格ムーブメントが そろそろ第一期が落ち着いて、第2世代としてこの京極夏彦、森博嗣などが数多く登場しています。その登竜門となったのが、メフィスト賞。
講談社の文芸雑誌メフィストから生まれた公募文学新人賞なのdすが、その第一回受賞作家が森博嗣ですが、そもそもこの賞が生まれたきっかけが京極夏彦の「姑獲鳥の夏」になります(普通に持ち込み投稿したものを編集者が読んで、そのクオリティにびっくりした編集者が他にも世に埋もれた才能を発掘すべくメフィスト賞を設立したという経緯があります)。なので、後に「姑獲鳥の夏」は第0回メフィスト賞とシャーロック・ホームズ賞が贈られています。
実は、当時私は本屋を覗くのが趣味で、仕事が午後早くに終わってアパートに帰る途中で駅の本屋に立ち寄ったところ、「姑獲鳥の夏」が平積みにされていて、そのインパクトのある表紙に引かれて表紙買い。
そのまま帰って読み始めたところ、すごく癖のある擬古文調の文章でかなり分厚いので、読み終えるのに何日も掛かるかな……と思ったのですが、その日のうちに読み終えてしまいびっくり!
途中で夕食を食べにいくつもりが、もう1章、もう1章、と読んでいるうちにとっぷりと日が暮れてしまい、結局夕食は随分と遅くなりました。
自分は本好きなのですが、人生のうちでこれほど集中して一気に本を読んだ経験というと、高校生の時に「罪と罰」集英社文庫版上下巻を2日間で読み切ったときと、この「姑獲鳥の夏」を読んだときの2回だけ。そろそろ、還暦を迎えるので、体力的にもうこんな読み方をすることは無いでしょうね。
「百鬼夜行」シリーズは、メインの登場人物が、探偵役の中禅寺秋彦(京極堂)、小説家の関口巽、旧家族の美青年探偵の榎木津礼二郎、ゴツい刑事の木場修太郎の4人のそろそろ中年に差し掛かる青年達なのですが、巻を経るごとにどんどんレギュラー陣が充実してきて、京極堂の妹の中禅寺敦子、木場の部下の青木文蔵、カストリ雑誌の編集者の鳥口文彦、刑事から榎木津に弟子入りして探偵になった益田龍一など多士済々。
「姑獲鳥の夏」で「分厚いなあ」と思ったものですが、京極夏彦の癖が本当に発揮されたのはその次からで、「魍魎の匣」「狂骨の夢」「鉄鼠の檻」「絡新婦の理」……と鈍器と称される分厚い作品が続いています。
ちなみに、「姑獲鳥の夏」は初めて読んだ時にはその衒学的な文章に魅了されましたが、正直に言ってあの落ちは推理小説としていかがなものか、と思ったものです。
それに対して、二作目の「魍魎の匣」は色々なストーリーラインが複雑に絡み合い、最後の列車の中で匣の中を見せられるところまで実に見事の一言につきます。推理小説でもあり、伝奇小説でもあり、このクオリティの作品をぽんぽん生み出せる京極夏彦っていったい何者だと思ったものです。
この最新作である「鵺の碑」は、「蛇」「虎」「狸」「猨」「鵺」の5部から成り、過去作の登場人物がオールスターキャストに近いぐらい総登場するのが特徴です。
また、京極夏彦の別シリーズである「巷説百物語」シリーズや「書楼弔堂」シリーズとのつながりもあって、今のところ集大成とも言える出来になっています。
「姑獲鳥の夏」が昭和27年夏の出来事で、「鵺の碑」が昭和29年2月。こうしてみると、随分と短い期間に色々な事件に巻き込まれているものです。
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