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冬期限定ボンボンショコラ事件 〈小市民〉シリーズ

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米澤穂信というと、推理小説ファンには本格推理小説作家として、「満願」「王とサーカス」「折れた竜骨」など何年も続けてミステリ関係の主要な賞を獲得し続けるなど、第一人者として高い評価を受けています。

しかし、デビュー当時は人の死なないタイプのいわゆる「日常の謎」系の作品に集中していた、という印象があります。特に北村薫の「円紫さんと私」シリーズに深い影響を受けて、創作の方向性を決めたという逸話で、その作風が判ります。

しかし、ある程度の年齢になってから娘ぐらいの年齢の女子大生を主人公にした「円紫師匠と私」シリーズがどこか昔を懐かしむようなノスタルジーを感じさせるのに対して、米澤穂信のデビュー作である「古典部」シリーズは青春時代の悩み、苦しみがもっとむき出しになっています。


思春期における全能感、それが揺れ動いて、現実に破れ、変化していく過程が丁寧に描かれていて、例えば、「古典部」シリーズの「愚者のエンドロール」では奉太郎の探偵としての能力を一枚上手の存在にうまく”利用”されて、苦渋を舐めます。「クドリャフカの順番」では、何人かの登場人物が天才の友人と自分を比べてその才能の差に悩み苦しみます。

そういう内容であるからか、作者の米澤穂信がある程度の年齢になると、古典部シリーズはなかなか続編が書かれなくなります。作者自身は奉太郎達が高校3年間を過ごして卒業まで描くつもりだと発言していますが、未だ2年生の始まったあたりぐらいで止まっています。

「古典部」シリーズは、京都アニメーションによってTVアニメシリーズ「氷菓」として作られたのですが、それも2012年の話。この「氷菓」はマイベスト深夜アニメの一つで素晴らしい作品なのですが、「原作が足りなくて、二期が作れないなあ……」と思っている間に、京アニのあの忌まわしい事件が起きて主要スタッフが失われてしまい、もう続編は望めないし、仮に作っても一期の雰囲気とは変わってしまうだろうと思います。

そうした「決定的に失われた」美しい過去の思い出という、どこか苦さを感じさせる「古典部」シリーズなのですが、もっと強く青春の苦味、えぐ味と言っても良いかも知れませんが、生々しさを感じさせるシリーズが「小市民」シリーズになります。「小市民」シリーズは「古典部」シリーズと同時期に発表されたもので、作品名が春、夏、秋と続いて、いよいよ冬かと思ったのですが、そこでシリーズ刊行が途絶。2020年にやっと新作がリリースされたのですが、それが「冬」ではなくて、番外編的な「巴里マカロンの謎」。

なんだか肩透かしを食らったっぽいタイトルですが、内容も青春の苦味を感じさせる内容ではなくやっぱり番外編でした。(ただ、連作推理小説としての内容は非常にハイレベルで流石は米澤穂信と思わせるものでしたし、小山内さんは可愛い)





「小市民」シリーズは基本的に短編推理小説が連なっていて、最終的に一つの大きな事件が浮かび上がってくるという連作短編形式。主人公は名探偵の素質があるのは良いけどそれにうぬぼれて中学生時代に周囲を傷つけて非難されるという苦い経験をして、その性癖を封じて小市民を目指す小鳩常悟朗と、一見すると少女のように見えながらも内心に狼を秘めているヒロインの小山内ゆきの2人。

その2人が、自分が危ない時には相手に助けて貰うという互恵関係を結んで、高校生活を過ごすのであるが、その様子は傍からみてると「地味なカップル」。

シリーズ一作目の「春期限定いちごタルト事件」はまだそこまで物語の構造がむき出しになっている感じはしませんが、「夏季限定トロピカルパフェ事件」ではそのシリーズの骨格となるような設定自体を推理小説としてのトリックの肝に使うという、ちょっと他では見かけないような展開を見せます。

せっかく良い感じのシリーズの骨格を作りながら、それを2作めで捨ててしまうって、すごくもったいないような気がします。それをやらなければ、いつまでもずっと続けられるようなシリーズになりそうなものですが、しかしそうすると今度は「青春の苦味」を描いた、米澤穂信の作風の根幹を揺るがしてしまうのかも知れません。青春はあっという間に過ぎ去ってしまうものですから。

ともあれ、夏でこうなってしまっては、秋をどうつなげるのかかなり無理があるだろう、と当時、思ったものですが、秋は上下巻の長編で2人を中心にしか関係の変化や心情の揺れを丁寧に描いて、一定の着地点に辿りついています。ただし、たどり着いたのは良いのですが、もう高校生活もあまり残りが無い、という時点まで進んでしまい、冬をどう決着つけるのか楽しみなような怖いような気持ちになったものですが、そこで続刊がなくなってしまい、10年以上。

それやこれやで、すっかりもう続きは無いのだろうな、と思っていた「小市民」シリーズですが、ファンでも忘れた頃になって番外編の「巴里マカロンの謎」が出たかとおもったら、今回「冬期限定ボンボンショコラ事件」の発表がありました。

今はまだ予約段階で、4月30日発売なので、内容はわかりませんが、普通に考えれば、2人の高校生活が終わりを告げる3年生の出来事を描くという展開のはず。アマゾンの説明文を読むと、高校3年の受験期のことを描いているっぽいのですが、どうなることか?

なお、「小市民」シリーズは今年7月からTVアニメシリーズになると予告されているので、そうした意味もあっての最新作の発表になるのかと思います。

公式サイトを見ると、キャラデザの齋藤敦史はその京アニ出身でハルヒの2期で退社して現在はフリーランス。これまでラブライブ!スーパースター!!、ひろがるスカイ!プリキュアのキャラデザをつとめてきた実績があって、今回もトレーラーを見る限り良い感じです。

さらにポイントの小山内さんは声が羊宮妃那でイメージぴったり。

監督の神戸守はエルフェンリート、テガミバチ、ソ・ラ・ノ・ヲ・ト、君と僕。、すべてがFになる、約束のネバーランドの監督をつとめた人。個人的には「ソ・ラ・ノ・ヲ・ト」と「すべてがFになる」は好きなアニメなので、その監督ということで期待大です。なお「約束のネバーランド」は一期は面白かったのですが、二期は途中で視聴中止したので、それが不安と言えばふあんかな。

それと、作品のボリューム的に最後までやろうと思ったら2期24~26話無いと無理。いやそれだけあっても巴里マカロンまで入れるとちょっとキツイんじゃ……、と思います(もちろん、冬のボリュームにもよりますけど)。

1クールだったら、春と夏ぐらいまででやめて、あとは人気なら2期……という形にしてほしいです。

最新作ももちろん楽しみですが、それと同じぐらいTVアニメシリーズも楽しみ。これで小山内さんの可愛い見た目を裏切る、内心の狼ぶりに世のオタクがビビりまくる様子が今から目に浮かぶようです。

あと、一つ追記。アニメ放映中ぐらいは特殊表紙になるのはやむを得ないとして、冬のレギュラー表紙までアニメの絵柄にするのではなく、これまで通り片山若子の情感溢れるイラストを採用して欲しいです。


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